京都大学医学研究科・医学部の創立125周年を祝して
医学部並びに医学研究科の創立125周年、心からお慶び申し上げます。
京都大学は臨床、基礎ともに日本の研究をリードして参りました。
臨床部門では、芸妓の化粧品として使われる白粉の中に鉛が大量に混じっており、大変な病害を撒き散らしているという平井毓太郎先生の重要な発見がありました。
私が何よりも誇りに思っているのは、ハンセン病の研究において当時助教授であった小笠原登先生の功績です。小笠原先生がハンセン病はゆっくりと感染を起こすのだが主として自己の免疫反応によって起こる症状であり、大袈裟な隔離政策は必要ないというビジョンを示されたにも拘らず、当時強引に国家ぐるみの隔離政策が進められた結果、今日の様々な問題が起こりました。幸いにも、戦後、本学出身の大谷藤郎元厚生省医務局長がこの政策の誤りを認め撤廃をすることになり、現在ハンセン病患者の正当な権利が認められるようになりました。
臨床、基礎の融合の例として、高月清先生の成人T細胞性白血病(ATL)という疾患概念の確立、そしてその原因がウイルスであるという日沼頼夫先生の発見、その時に表面に強発現されるTac抗原を内山卓先生が発見され、その正体がIL-2 受容体アルファ鎖であるということを私がみつけたのも、この流れの中であり得たことです。
基礎部門では、病理学の藤浪鑑先生による腫瘍ウイルス(藤浪肉腫)の発見、平沢興先生による錐体外路系神経回路の発見、また医化学教室の沼正作先生によるアセチルコリン受容体の構造と機能の解明、それを引き継いだ中西重忠先生によるグルタミン酸受容体の構造発見とその機能の解明、続いて山中伸弥先生による細胞の初期化に必要な遺伝子の発見、そしていわゆるiPS細胞の確立。山中先生はこの発見によって2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。また私事で恐縮ですが、抗体遺伝子の再構成に触媒する酵素、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)の発見、また免疫を制御するPD−1分子の発見とその癌治療への応用で2018年ノーベル生理学・医学賞をいただきました。京都大学医学部は2人のノーベル賞受賞者を輩出した日本で唯一の医学部となっております。
このような輝かしい伝統を生んだ京都大学医学部の歴史と風土を大切にし、世界のトップレベルの研究機関としての位置を一層確立していかれることを切に望んでおります。
京都大学高等研究院 副院長・特別教授
京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター センター長
本庶 佑